担当事案が自保ジャーナル2191号に掲載されました

松浦・岩本が被告側(交通事故加害者側)を代理した裁判例(東京地判令和7年1月22日)が、自保ジャーナル第2191号(令和7年10月9日発行)に掲載されました。

この事案では、原告が交通事故によって左膝内側側副靭帯損傷、右肩棘上筋腱板断裂の傷害を負ったと主張しました。これに対し裁判所は、医学的見地からの当方の主張に基づき、本件事故によって原告がこれらの傷害を負ったとは認められないと判断し、その他の打撲、捻挫等の治療は通常一カ月、長く見ても2か月の通院しか相当性を認められないと判断しました。
さらに、時には1カ月約30万円にも及んだある病院(整形外科)の通院治療費について、高度な医療行為や特殊な治療は不要であって高額な自由診療を行う合理性が認められないこと、費用の算定根拠が不明で矛盾も見られることなどから、当該病院の治療費の全額を否認するという判断が行われました。
結論として、原告の損害は既払い金を下回るとして、原告の請求が棄却されました。

交通事故の事案においては、病院の診断する傷病名が正しいものであるのか、傷病名としては正しいとしても本当に交通事故によって生じた傷病であるのかを慎重に検討すべきケースが多数あります。
ただし、訴訟においては多くの裁判官は病院の診断には一定の信用性があることを前提に検討しますので、それを覆すためには、加害者側の代理人は、まず診断書に記載された傷病について正しい病態、検査方法、症状、治療方法を十分に理解する必要があります。さらに、なぜ当該事案ではその傷病を否定すべきであるのかについて、なるべく裁判官に伝わりやすいよう、平易かつ説得的な主張と立証を心掛けることが重要となります。

また、交通事故の自由診療では、明らかに過大と言わざるを得ない治療費を請求する医療機関が少なからずあり、多くの損害保険会社がその対応に苦慮していると思われます。
この点についても、裁判官は診療報酬の算定方法に精通していないのが通常ですから、自由診療の処理についてこれまでの裁判例における考え方を説明した上で、単に金額が高額過ぎると否認するのではなく、当該事案において治療が高額となっている要因がどこにあるのか、適切な算定方法を採用した場合には治療費はどの程度になるのか等を、具体的かつ分かりやすく説明していく工夫が必要になると考えています。
本件が、こうした治療費が問題となる事案の解決のために少しでも参考になれば幸いです。